Topics 2002年2月11日〜20日    前へ    次へ


20日 労働市場の柔軟性と景気回復力
19日 経営戦略と労働組合
18日 経営者の受託者責任
17日 経済心理学
15日 401(k)プランの生い立ち
14日 景気と出生率
12日 医療保険改革と選挙
11日 大統領医療改革提案


20日 労働市場の柔軟性と景気回復力 Source : Weak Unions Create a Strong Economy (Wall Street Journal)
 う〜ん、このWebsiteに寄稿してくれればよかったのに、とつい唸りたくなるような記事だ。アメリカの労働市場は、明らかに柔軟性を高めており、その結果、景気回復力が高まっているというのだ。まだ景気回復が明らかになったわけではないが、Topicsの2月6日で紹介した生産性の向上は、その一つの指標だろう。もし、今年上半期に景気回復過程に入ったとしたら、たった1年で回復したことになり、アメリカ経済の規模の大きさを考えれば、驚異的である。

 この労働市場の柔軟性を高めている一つの要因が、労働組合の弱体化だと、この記事は指摘している。ほかにも柔軟性を高める要因はあるのだが、次第に労働コストが固定費ではなく、変動費として認識され始めている。変動費として認識できるようになれば、売上が伸びることが予想できれば、経営者は積極的に雇用を増やしていくことができるわけだ。

 だからといって、組合を潰してしまえば、企業経営はうまくいくなどとは思っていない。むしろ、賃金制度や福利厚生、職場環境について、組合と話し合いながら決定していくことは重要である。アメリカの企業でも、例えば従業員からの代表を交えて年金委員会を設置し、年金制度の運営について様々な決定をしていく。最終的な決定、責任はCEOが行うものの、その過程で従業員の参加を求めることが重要というのは、多くの経営学者が指摘しているところである。

 私は、昔の国労・動労や、日教組が大嫌いだ。彼らのおかげで日本経済が足を引っ張られた部分が多くあると思っている。しかし、民間企業における組合は、上記のような理由から、むしろ重要だと思っている。理解できないのは、産別や連合といった、企業横断的な労組団体の活動である。ここ2、3年、ようやく業種横断的な労働条件交渉(「春闘」)が後退し始めた。これが当然の姿である。労組の構成員である従業員は、毎日熾烈な市場競争を演じているのである。それが共通の条件交渉を行うというのは、あまりにも表面的すぎる。むしろ弊害が大きい。

 業種横断的な労組の協力関係は、欧米の職種別組合の流れを汲んでいるのだろうが、日本経済、日本企業にとっての優位は、個別企業毎に組合が結成されていて、職種別組合がないことにあると思っている。アメリカ企業に再びチャレンジする時代が来るとすれば、このメリットを活かすべきである。

 日本経済の構造改革は、いろいろな分野で必要となっているが、労働市場の構造改革も重要である。なにせ労働市場は、すべての経済活動に共通するものだからだ。日本企業の経営者が、労働市場を柔軟にする努力、雇用制度に改革を加える努力を開始すれば、日本経済の復活が少しは近くなるだろうと思う。

19日 経営戦略と労働組合 Source : Southwest to add 4,000 jobs this year (AP)
 またまたSouthwest航空が話題を提供してくれた。今年4000人の新規雇用を行うというのだ。

 昨年のSeptember 11以来、航空会社各社は、経営悪化を食い止めるために、のきなみ、大量lay offと路線の削減を行ってきた。その中で、Southwest航空だけがlay offを実施してこなかった(「2月10日 失業保険の抑止力」参照)。それだけでもかなりの驚異なのに、今度は雇用を増やすという。

 記事によれば、その他の経費を徹底的に削減することで、雇用の維持を続けているとのこと。例えば、主要都市の大空港を使わず、その周辺の空港を使うことで、空港使用料を節約して安い運賃を提供しているらしい。空港が大都市の周りにいくつもあるという、アメリカならではの特性だが、それを利用して顧客の人気を得られるよう工夫しているのは立派だ。

 他方、United Airは組合との交渉に、青息吐息である。今日、漸く、整備工組合との2年越しの交渉で仮合意に到達した。整備工組合は、合意に達しなければストライキに突入する構えで臨んできていた。別の記事によれば、Unitedは、毎日1000万ドルの損失を出しており、ここでストを打たれれば、倒産に追い込まれかねないとのことだ。

 私が労働組合に問いたいのは、どうして組合がここまで企業を追い込まなければならないのか、ということだ。景気のいい産業なら、そこまで利益を追求してもいいだろう。もしそこで企業が倒産したとしても、別の企業での雇用の可能性が高いからだ。しかし、今、Southwestを別にして、航空業界は最悪の状況である。その中で、賃上げ、年金の引き上げを要求するとは、何を目的にして組合が活動をしているのだろうか。組合には組合の目的があり、それ自体はわかるが、それが組合員の雇用ややる気につながらなければ、ただのお節介、邪魔になるだけの存在になってしまう。

 Southwest航空の従業員が組合に参加しているのかどうかを調べておく必要があるが、アメリカ企業が、対労働組合でどのような戦略を取っているのか、興味のあるところである。

18日 経営者の受託者責任 Source : Which Hat Was He Wearing? (CFO.com)
 ようやく冷静な記事が出たな、との印象だ。

 これまで、Enron社員の年金資産が吹き飛んだのは、前社長のKenneth LayをはじめEnron経営陣が従業員に対して経営状態に関する正確な情報を伝えていなかったからだ、という論調が大勢であった。しかし、この主張はまったくおかしいのだ。Enron経営陣が従業員に経営状態に関する情報を伝え、市場には伝えなかったとしたら、それは会社ぐるみのインサイダー取引となるからだ。

 この記事では、Lay前社長は、CEOとしての帽子と401(k)プランスポンサーとしての帽子を持っていた、と説明している。この両者の間には、かなりの確率で利益相反が生じる可能性があり、今回のEnronのケースは、それを立証してしまったわけだ。CEOは当然ながら、企業経営の最高責任者である。他方、年金等のプランスポンサーとしては、従業員の利益に忠実でなければならない。これを年金の世界では、「受託者 (fiduciary)の忠実義務」と呼ぶ。受託者は、企業の利益ではなく、従業員の利益のために行動することが求められる。従って、Enronの経営状態が悪いと察知すれば、従業員にEnron株を売却するようアドバイスすることが望ましい。

 ここで2つの問題が発生する。第1は、CEO自ら従業員に自社の株を売れということは、CEOとしてはできない。従業員が株を売却すれば、さらに株価が下落し、経営状態をますます悪くしてしまう。ここに、利益相反が発生してしまう。第2は、仮にCEOの帽子ではなく、受託者としての帽子をかぶって、従業員に株の売却を勧めれば、これはインサイダー取引になってしまう。

 この問題は、日本の企業年金制度でも充分起こり得る問題だ。社長に年金制度の最高責任者としての役割を持たせるべきかどうか、という問題である。年金問題は、重要な人事政策であると同時に、財務にも大きく影響する。このような重要問題を社長決裁なしに進めることはできない。かといって、社長が年金問題の最高責任者ということになれば、受託者責任が求められる。心有る企業経営者、年金担当者は、このような問題を、コーポレート・ガバナンス上の課題として認識し、利益相反が生じないようにするためにどうすればよいのか、腐心しているところである。

 この記事にあるように、年金問題の最高責任者を、CEO以外に指名してしまうことも、一つの解決策である。この年金問題最高責任者は、受託者責任をただただ遂行すればよいのである。しかし、それでは、先ほど述べたように、経営に重要な影響を及ぼす年金制度について、経営者の意向はまったく反映されなくなる恐れがある。また、この最高責任者が企業経営のインサイダー情報を知りうる立場にあれば、従業員にその情報を提供することはやはりできない。年金責任者を企業経営情報からまったく蚊帳の外に置かなければ、この問題は解決できない。

 この4月から日本で施行される、確定給付企業年金法では、企業年金に3つの型を設けている。契約型、基金型、厚生年金基金の3種類だ。このうち、基金型、厚生年金基金の場合、年金プランの最高責任者は、一応会社組織の外にある基金の理事長ということになるので、この理事長を社長が兼任しない限り、形式上は利益相反を回避できる。しかし、それで実際の会社経営と年金制度運営がうまくいくのかどうか、定かではない。むしろ、これまで、社長はじめ経営陣が、年金制度にあまりにもタッチしてこなかったために、様々な弊害が生じたり、対応が遅れたりしてきた。経営者は、以前よりはるかに年金制度には関心を持たざるを得なくなっているのだ。

 これが、契約型になれば、形式上の整理もなかなか難しい。おそらく、当初は労使から代表を出して、年金運営委員会を設置し、ここがコントロールしていく形をとって、形式上、経営責任と年金制度責任を分けることになるだろう。

 受託者責任はとても重要であるだけに、その社内での位置付けに一工夫もふた工夫も必要となる。

17日 経済心理学
 Source : Why Do People Lose Their Life Savings? Behavioral Economists Say They Know (ABC News)
 今、Benefit研究者の間で話題になっている記事である。なぜEnronの従業員は、年金資産を失ってしまったのか。「Behavioral Economists」は、その理由を知っているという記事だ。

 古典的なミクロ経済学では、個人は経済合理的な行動を取ることを前提にしている。しかし、実際の世の中の人間達は、必ずしも経済合理的な行動を取るわけではない。この記事では、いくつかの例示をしている。

○10ドルの節約のために自分の庭の芝刈りはするが、同じ10ドルを稼ぐために近所の庭の芝刈りをすることはない。つまり、金を得る事より失う事の方を嫌っている。

○6種類のジャムを並べた売り場と24種類のジャムを並べた売り場では、24種類のジャム売り場で立ち止まる買物客の方が多い。しかし、実際にジャムを手に取って購入した人の数は、6種類のジャム売り場の方が10倍多い。人々は選択肢が多過ぎると選択する事を放棄してしまう。

○企業年金の場合、従業員の投資行動は、企業が提供する選択肢や、企業のマッチング拠出の形態に影響されやすい。

 こうしてみると、「分散投資が必要だ」と、学者も政治家も主張しているが、ただ選択肢を増やすだけでは意味がないのである。選択肢一つ一つの性格をよく把握したうえで従業員が投資を決定するようにならなければ、いつまでも自己責任原則の企業年金は画餅に終わってしまう。投資教育、financial literacyの重要性を改めて認識させられる記事だ。

 今日の本題は、企業年金の話ではなく、経済学の話である。ここに記されている、「Behavioral Economists」は、最近とても注目されている。先ほども書いたが、現実の人間の行動と、古典的な経済学が描く「合理的な」人間行動とは、大きくかけ離れている場合がたくさんある。こういう経済学の基盤となる、人間の行動をもう一度よく見直して、ミクロ経済学を再構築しようとする動きが、若い経済学者の間に出てきている。

 日本では、実験経済学と題して、行動決定理論の見直しを進めている学者達がいる。信州大学の西村助教授も、その分野の代表的な学者の一人だ。西村助教授は、大学時代から勉強熱心で、惜しくも亡くなられた石川経夫先生のゼミの卒業生だ。このようなミクロ経済学の再構築は、21世紀の経済社会には不可欠だと私は信じている。ぜひとも早く成果をあげ、世の中にアピールしていただきたいと願っている。


15日 401(k)プランの生い立ち
 企業年金についての一連の改革提案に関連して、そもそもアメリカの企業年金制度がどうなっているのか、資産運用における自社株の扱いについてどのような規制があるのか、というご質問をいただいたので、若干の説明をさせていただく。

 まず、アメリカの企業年金における自社株の扱いである。

 これは、確定給付型(Defined Benefit;DB)と確定拠出型(Defined Contribution;DC)とでは扱いが違う。DBとは、年金として支払う金額を予め約束しているプランで、その運用は企業と信託との間の契約で行う。他方、DCとは、企業が拠出する金額は決まっているが、その運用は従業員個人の指示で行われる。従って、結果として退職時にいくらたまっているかは、個人によって異なる。

 DBにおける自社株運用については、法的規制がある。年金資産総額の10%が上限となっている。他方、DCプランでは、自社株運用については、ごく一部を除いてほとんど法的規制はない。

 企業年金を規定する法律(ERISA。後述)を完全に把握しているわけではないが、さまざまな状況から見て、「DBとDCの間で自社株運用に関する規制が異なっているのは、資産運用の指示を行う主体が異なるからだ」と理解している。

 DBは基本的に企業が運用指示を行う。従って、自社株での運用を無制限に認めてしまうと、
・企業が倒産したときに年金も倒れてしまう
・企業が自社株の価格操作に年金資金を利用する
という可能性がでてくる。だから、DBには自社株での運用に規制が設けられているのだ。

 ところが、DCの運用指示は、従業員個人が行う。まさに自己責任の世界だ。従って、従業員個人が自らの判断と責任において自社株で運用するのは構わない、という理屈だ。

 今Enronで問題になっているのは、会社側が規定したルールが、次のようになっているためだ。

○企業の拠出は自社株で行う。
○企業が拠出した自社株は、50歳になるまで他の資産に転換してはならない。

 EnronのDCプランの規定がこうなっているために、50歳に達していない従業員は、株価が下落していくのを、ただ黙って見ているしかなかった。

 そこで、今議論が行われているのは、立法によって、上記のような企業側のルール設定に制限を設けようということだ。例えば、ブッシュ大統領の提案は、「従業員のDCプラン加入期間が3年を越えれば、企業側が拠出した自社株を他の資産に転換する権利をその従業員に与える」というもの。民主党の議員達は、それではまだ規制が甘いので、もっと早く、例えば1年とか、90日とかで、転換する権利を与えるべきだ、と主張している。さらに、個人別の勘定の中で自社株が占める割合についても、例えば20%を上限(キャップ)にすべきだという意見も出ている。

 ちょっと余談になるが、Enronの場合、DCプランの資産全体に占める自社株の割合が約60%だった。この数字は、個人別の勘定を積み上げた数字であり、中には90%以上Enron株で持っていた人もいれば、20〜30%くらいしか入っていなかった人もいると思う。なぜこういう違いが出てくるかというと、従業員が拠出する分(税引き前扱い)は、予め与えられた選択肢の中から投資先を決定できる。この選択肢の中に自社株があれば、そこに100%突っ込むのも結構、全く入れないのも自由というわけだ。

 話を元に戻して、では、なぜ企業側が自社株で拠出することをDCプランで認めているか、というそもそもについて説明する。

 企業年金を規制している法律は、Employee Retirement Income Security Act (ERISA)といい、1974年に成立した法律で、DBもDCもカバーしている。実はこの法律の成立も、今回のEnronのように、企業倒産がきっかけだった。1964年にスチュードベーカーという大企業が倒産した際、企業年金資産が大幅な積立不足になっていた。このため、退職者にはほぼ約束通りの年金を提供することができたが、現役従業員については、0〜15%程度しか提供できなかった。まさに今のEnronと同じ悲劇が起きたわけだ。この事件をきっかけとして、従業員の年金受給権を保護する法律が必要との議論が高まり、このERISAが成立した。その際、Employee Stock Ownership Plan (ESOP)という制度が、DCプランの一つの形態として認められた。日本で言えば従業員持ち株会だ。このESOPとは、次のような概要となっている。

・拠出はすべて企業が自社株で行う。
・一定年齢までは他の資産への転換を認めないとのルールを設けていい。
・ESOPプランは、銀行借り入れにより自社株を購入できる(レバレッジ)。

 どうしてこんな制度が年金として認められたのか。それは、当時のアメリカ企業にとって最も悩ましい問題を、このESOPが解決してくれるという信念が、多くの政治家、企業家にあったからだ。その問題とは、「株主と労働者の利益相反」だ。企業の利益を誰にいくら分配すべきか、もっといえば、企業は誰のものか、という議論だ。

 ESOPという制度を導入すれば、株主と労働者の利益は、完全に一致しないまでも、長期的にみれば、かなり近い立場になってくる。これにより、多くの労働争議や社会問題を少しでも解決しようという意図があったのだ。この制度により、従業員の企業への参加意識、共同意識はかなり高まったと言われている。80年代の新興企業が、Stock Optionを使って、有能な人材をかき集め、急成長していった理屈とよく似ている。

 また、このESOPプランは、アメリカ企業にとってはなかなか得がたい、「安定株主」となってくれるのが特徴だ。さらに、80年代には、敵対的TOBへの対抗策としても活用された。TOBがかかると、このESOPプランが銀行から借り入れて、大量に株を買い付けることができたからだ。

 このようなESOPの性格を、一般的なDCである401(k)プランも持っている。EnronのDCプランは、401(k)プランだったが、企業拠出を自社株で行っていたために、かなりESOPに近い性格のものとなっている。マスコミでは、こういう制度をKSOPと呼んでいる。(401(k)とESOPを混ぜた合成語だと思う。)

 以上のように、アメリカのDCプランには、年金としての性格だけでなく、従業員に対するインセンティブ、労使協調のツールとしての性格も埋め込まれている。

 現時点で、企業側は、自社株の他資産への転換や、自社株割合へのキャップに対し、強く反対している。その理由として、
・従業員の選択の自由を確保できなくなる(これは自社株割合へのキャップに対して)
・ESOP制度が事実上維持できなくなる
・自社株による拠出ができなくなると、キャッシュフローが必要となる
などを挙げてくるのだろうが、もっと根本的には、上記のような背景があり、DCプランが人事戦略上非常に重要なツールとなっていることは無視できない。

 従って、一部の学者やマスコミのように、DCプランの年金制度としての側面だけで議論を進めていこうとすると、DCプランの現実を無視することになってしまうことになる。この点に、企業のトップや人事担当役員達、企業年金の専門家が危惧を抱いているのである。
(補足)
 「12日 医療保険改革と選挙」で取り上げた、「無保険者をなくそう」というキャンペーンは、13団体が連合体を組んで行っており、そのWebsiteもあるので、ご参照いただきたい。かなり刺激的な内容となっている。

14日 景気と出生率 Source : Women Are Having More Children (NCHS)
 羨ましい話である。2000年のアメリカの特殊合計出生率が、2.13になったそうだ。この特殊合計出生率とは、アメリカ人の女性が一生の間に産む子供の数の推計である。人口を一定水準に保つためには、この出生率が2.08になる必要がある。この数値を上回れば人口は徐々に増加し、下回れば人口は徐々に減少する。アメリカの人口は増加するかもしれないのだ。

 翻って、日本の出生率は、1999年に1.34と、既に2.08を大きく下回っており、長期的にみても1.39にまでしか回復しないとの見通しが出ている(Topics 1月27日参照)。確か東京都の出生率は、既に1.1を下回っており、これまで全国の出生率は東京都を後追いしてきた経緯があるので、この見通しもかなり甘いと言わざるを得ない。日本の人口は、確実に減少していくのである。

 明治時代のように、子供を増やして国力を高めるのだ、という思想には反発したくなるものの、若い世代の人口が少なくなっていくというのは、いい気分ではない。活力はなくなってくるし、社会が沈滞化してしまう。日本自体が過疎地となってしまうような気がする。日本経済にとって重要な研究開発も、たくさんの若い研究者が競い合わなければ、世界に先駆けるような研究開発も生まれないだろう。

 「かんべえ」さんには怒られるかもしれないが、私はニュージーランドがどうしても好きになれない。最大の理由は、あの国の社会の活気のなさだ。若者の多くは、オーストラリアにいって仕事をしていて、時々帰国してくるだけだ。街の公園には、年寄り夫婦しかいない。目抜き通りを通る車ものろのろ走っている。日本がそういう国にはなってもらいたくないと思っている。

 話がそれてしまったが、アメリカの出生率は、1972年に2.08を割り込み、1976年に1.768でいったん底を打ち、その後徐々に回復している。この回復傾向はしばらく続き、1990年には2.081まで回復するのだが、その後再び低下してしまい、1995年2.019となった。それからは一本調子で上昇している。

 「出生率が2.13に上昇したのは経済成長が続いたからだ」との分析もあるようだが、それは、1995年から2000年までの上昇時期には当てはまるが、1976年から1990年までの上昇トレンドはまったく説明できない。移民ということも考えられるが、それでは1990年から1995年の出生率低下が説明できない。

 何か別の要因があるような気がする。アメリカ社会が持つ固有の文化だとか、遺伝子だとか。誰か、アメリカの出生率を左右する要因についてご存知の方は、教えてください。

 ちなみに、2001年の出生率は、景気後退にもかかわらず、さらに高まることが予想される。September 11により、社会の危機感が高まり、子供を持とう、またはもう一人もうけようと産婦人科を訪れる夫婦が急増したそうだ。アメリカ人のこういうマインドは、私にはまったく理解できそうにない。

12日 医療保険改革と選挙 Source : Let's Insure America (Washington Post)
 このWashington Postの記事は、全米商工会議所会頭と最大の労組団体AFL-CIOの委員長が、共著で寄稿した意見記事である。日本でいえば、経団連と連合が一緒に意見広告を出した、ということだ。

 昨日の大統領医療改革提案をどこまで意識してこの意見記事を出したのか、大変興味のあるところである。

 昨日の大統領提案は、"Improving Health Security in the Best Health Care System in the World"を課題として挙げている。今日の記事では、"世界で最も先進的な医療システムを持っているとしても、労使双方にとって最大の課題は、3900万人の無保険者の問題だ"と主張している。いろいろ細かな政策を並べるよりも、医療の世界で最大の課題である無保険者をなくすことに重点を置け、と言っているのである。意地悪な見方をすれば、大統領提案を一蹴した、とも読める。

 昨日も記載したが、アメリカの労働者にとって最も関心のあるbenefitは、医療保険である。医療保険は、emplolyerが任意に提供するものであり、だからこそ人事戦略の一環として重要な位置付けになるのだが、景気後退期や中小企業にとっては、その保険料負担は大変な重荷になる。現時点で、医療保険をめぐる環境は、@景気の底が明らかになっていない、A大量のLay offが行われている、B医療保険料は2桁近い伸びになる、という三重苦となっており、無保険者が大量に増加することが予想されている。

 また、意見記事の文末で、「今年は選挙だから大きな改革はできない」という考え方には賛成できない、と明言している。明らかに選挙を意識し、選挙においても争点にすべきとの立場を示している。

 このような労使の主張は、大統領提案に打撃を与え、11月の選挙で民主党有利の地合いを作っていくのではないかと思われ、今日のTopicsに取り上げてみました。

11日 大統領医療改革提案
    Source : President Outlines Agenda for Improving Health Security in the Best Health Care System in the World (White House)
 1日の企業年金改革に次いで、今度は医療改革提案である。戦時体制予算を提案して強いアメリカへの支持を求めながら、一方で"Health Security"という優しさを追求する姿勢を見せている。

 ちなみに、世間のお騒がせ度合いは、Enronとそれに伴う企業年金制度の見直し議論の方がずっと喧しいが、国民にとって関心が高いのは、実は年金ではなく、医療である。政治もその辺りをよくわきまえており、医療は票になるが、年金はならないということを充分意識している。

 今日の大統領提案も、明らかに中間選挙に向けた政策表明である。今日の大統領の発表場所は、Medical College of Wisconsin。Wisconsin州は、現在のTommy Thompson厚生長官が、入閣前に州知事を務めていたところ。現知事は、Thompson知事のもとで副知事を務めていたScott McCallumで、当然共和党。彼は今度の選挙で苦戦が予想されているのである。しかも、現知事の兄弟が、Libertarian candidateとして参戦しているというからすごい(Washington Post)。

 さて、肝心の中身だが、マスコミの報道では、これまでブッシュ政権で主張してきた事をまとめ直しただけ、という評価だ。主なものを拾ってみると、次の通りだ。

 今後は、夏まで続く議会の予算の法制化、11月の選挙などをにらみながらのキャンペーンが、しばらく続くことになるだろう。